1989年5月21日(水)「赤旗日曜版」

女子高生監禁殺人事件を考える

断ちきる努力 地域の手で
たえず、”暴力団の手”が…

 東京・足立区の女子高生監禁殺人事件
で、犯人の少年グループの背後に暴力団が
かかわっていたことは、すでに報道されて
います。問題は、どうしてこのようなかか
わりがつくられ、またそれ放置されていた
のか、という点にあります。そこには、
共働きなどで昼間少年たちに親の目がとど
かなかったではすまされない、地域の危険
な状況があります。

 土曜日、午後十一時、足立区の綾瀬駅前、深夜営業のコンビニエンスストアあ
り、パチンコ店あり、ゲームセンターあり……。
 この地域は東京、埼玉、千葉三都県の”十字路”に当たり、交通の便もよいこ
となどから、集まってくる少年たちがふえています。

あの手この手

 駅周辺には、一見してつっぱりとわかる女子数人がたむろし、「土浦」(茨城
県)や「大宮」(埼玉県)ナンバーの車からは、少年が女の子に声をかけます。
紙袋を持った女の子が二人、三人と群れて立ち、「何をしているの」ときく
と「友だちを待ってるの」、「どこかへいくの?」「べつに……」。
 気楽に歩ける雰囲気ではありません。綾瀬地域にくわしい人たちによれば、こ
うして駅前に少年、少女がたむろしているのはいつものこと、といいます。
 当然、こうした少年、少女たちには暴力団が目をつけ、あの手この手で仲
間へ引きずり込もうとします。
 実際、地域の事情にくわしい人の話では、非行少年たちがテキヤの下働きをさ
せられたり、キャバレーで働かされたりするケースがよくあるといいます。また
暴力団からツケでゲームセンターで遊ばせてもらい、月末に支払いを要求されて
借金をかかえこむ、といったことも。シンナーが暴力団の資金源になっている、
女子中学生を中心とした売春組織さえある、という指摘もあります。

飲み食いさせ

 女子高生監禁殺人事件を起こした少年たちも、この地域の暴力団とかかわりが
ありました。
 少年たちは、同じ中学校を卒業したグループでした。昨年秋ごろ、こんどの
事件の主犯格A(一八)を中心に暴力団の下部組織のようにふるまう「極東青年部会
(極青会)」を結成しました。メンバーは十数人といわれています。
 「極青会」結成のきっかけは、関東関口一家真誠会二代目桜誠会系の暴力団組
員との接触から。この組員は少年たちが卒業した中学校の先輩でした。暴力団
の本拠地は新宿区ですが、少年たちの生活圏である綾瀬(足立区)や亀有(葛飾
区)にも事務所がありました。
 リーダー格の少年Aは暴力団から軍資金を与えられ、少年たちに飲み食いさ
せていました。
 暴力団は、少年たちに花売り店のアルバイトをさせていました。場所は、銀座
の数寄屋橋周辺の路上で、日当は三千五百円。
 一方、少年たちがひったくりなどで得た金の一部を暴力団に上納させていまし
た。
 こうして非行少年グループは、中学校の先輩組員を通じて、暴力団予備軍とし
て育てられていた、といえます。
 こんどの事件で少年たちは、女子高生を殺害したあと暴力団事務所に寝泊まり
していました。事件の手口について「本当に少年たちが考えついたことだろ
うか」との疑問の声もあります。
 少年Aは、中学校の同窓生にこんなことをもらしていました。
 「オレみたいになると、もう抜け出せなくなるぞ」

知らなかった

 問題なのは、こうした実態が地域住民や教育関係者らに十分把握されていなか
ったことです。
 事件に関係した少年たちの親のなかにも、自分の子供が暴力団にかかわって
いたことを知らなかった人もいました。
 足立区の中学教師がいいました。
 「中学校を卒業しても高校へいかない、かといって働かない、そういう子どもた
ちが中学生のつっぱりを組織する。その背後に暴力団がいるであろうことは感じ
ているし、暴力団との関係がわかることもある。しかし残念ながら、個別
ケースの域を出ない。広がりがわからないんです」
 児童福祉の関係者の指摘は−−
 「中学校にちゃんと登校している子
が、地域では暴力団とかかわっている例
もあるんです。そうなると、教師もなかなか気づかない。しか
も、学校でいえば5つ6つの中学校にまたがるほど広い。おまけに中卒後の問題
もある。地域全体が考えなければいけないんじゃないんですか」


東京民研(東京の民主教育をすすめる
教育研究会議)非行専門委員会委員長
小野晴滋(はるしげ)さんの話

人生を知り自分をきたえる機会に

 この事件を知ったとき、くるべきものがきたと思いました。それはとくに無職
少年の社会的問題としてです。校内暴力の次にくる大きな問題は、無職少年の地
域的暴力だと予感していたからです。

 ふえる高校中
 退無職少年

 校内暴力や女子非行がピークをこしたあと、いじめ、登校拒否、自殺、”無
気力症候群”など、外にむかうものから内にこもる形のものへ。そしていま、高
校などの中退者、無職少年の非行がクローズアップされてきました。
 この事件にかかわった七人の少年のうち四人までが高校を中退した無職少年で
した。
 全国で三十五万人いるといわれる無職少年は、まっとうな仕事いついて人生を
知るということが少ない。労働のなかで弱点を克服し、みずからを鍛えるとい
う機会を失っています。
 仕事についたとしてもその場しのぎのパートや第三次産業関連の仕事が多い。
それも長つづきがしない。この事件のリーダー格の少年がそうだったように、な
かには暴力団とつながるものもでてきます。テレホンデートクラブのビラ配りと
か少女売春のあっせんなどにかかわる少年もいます。
 中学や高校の能力主義、差別主義に排除されて中退した非行少年たちは、地域
に一つのたまり場を形成していくわけです。暴力団とつながった無職少年に脅さ
れて、いわゆる”カンパ”を強制される中学生もいます。十万円という金銭もザ
ラだといわれています。

 追っぱらわず
 じっくりと

 残念ながらこうした少年たちと深くかかわれる信頼すべきおとなたち、あるい
は地域的つながりというものがたいへん弱い。中学の教師にしても強制人事異動
の影響で、一つの学校にじっくり根をおろして卒業生のめんどうをみるというこ
とがむつかしい。
 無職少年のことも、親が人生の問題として真剣に話しあい、あきらめずにいっ
しょに進路を考えていく努力を追求しすることが基本す。同時に社会的、行政的
問題としての対応が急がれます。が、いまできるところから努力を積みあげてい
くことが大切だと思います。
 非行に走る無職少年がぶらっと中学に来て、バイクで学校の周囲を走ったりす
る。教師と話したいという一つのサインなんです。追っぱらうのではなく、招
き入れてじっくり話を聞いてやり、悩みにこたえてやる。そして、少年のいまの
状況を小学生のときの先生にも知らせて協力をえるといったことも必要です。
 もちろん、高校など学校側が中退者をださない努力をいっそう強めることが望
まれます。問題をかかえている生徒を「学校の評判をおとす」からと安易に退学
させるのではなく、家庭訪問などもくりかえし、場合によっては中学のときの担
任教師、親との三者で協議して方向を探ることも大事です。学校が社会的責任と
して「退学者をだすことは本校の恥」と思うくらいの構えをもって。

 あらゆる可能
 性さぐって

 地域でいえば、そういう少年たちを白眼視するのではなく、おとなたちがあた
たかくかかわる、親が隣近所の人に頼んで遠慮なく注意してもらったり、電話を
もらったりする。あるいは少年野球のときにめんどうをみたおとなたちが声をか
けつづける。教育を守る会や教育懇談会など地域のセンターをつくってとりくむ
など地域ぐるみの運動が大切です。そうしたなかでこそ、暴力、暴走、恐喝な
ど市民生活をおびやかす無法は容認しないという体制もできていくのではないで
しょうか。
 親がいろいろなところに相談しても、子どもをすぐに立ち直らせられないこと
もあるでしょう。しかし、絶望してはいけません。
 あらゆる可能性を探ることです。児童相談所や教育相談所など公的機関との連
携という点も大事です。
 あの事件では、女子高生監禁の場所となった家の少年をはじめ、何人かが家庭内
暴力をふるっていましたが、親がもっと早く児童相談所や行政の教育相談所な
どに相談していたらと、くやまれます。
 多くの事例とかかわっている相談員は、子供にたいする分析、対応策だけで
なく、”なにがそうさせているか”といった親のかかわり方の問題点についての
分析もできるはずです。