1989年5月26日(金)「赤旗」
追跡女子高生監禁殺害事件 《7》
十字路  地域が急変する陰で


 事件現場に近い足立区内の駅。週末の深夜、狭い道路は若者の車でひしめい
ています。
 足立区などで児童相談にたずさわってきた児童福祉司の上坪陽さん(五七)は「こ
こは、いろんな地域の子どもが集まるいわば十字路のようなところ」といいま
す。

     深夜営業の店急増
     学校近くにゲーム店

 古くからこの地域に住む人は「このあたりはここ三、四年のあいだに急激に
変わった」と。深夜営業のファーストフード店、ファミリーレストランなどが多
数進出し、マンションなどの建設も相次いで、新しい住民が増えました。駅前に
は若者が集まるようになり、「子どもを見ても、地元の子か遠くからきた子
か、わからなくなった」といいます。
 先日、事件を起こした少年らが卒業した中学校でおこなわれた緊急保護者会で
は、父母から地域の環境への不安の声もだされました。学校のそばにもゲーム
センターやアダルトビデオを置いたビデオショップが開店しています。中には、
つけ≠ナ子どもを遊ばせるゲームセンターもあるといいます。
 十年ほど前、この地域でも、母親たちが中心になって、ポルノ雑誌の自動販売
機撤去などの運動が起こりました。いま、子どもたちを取り巻く退廃文化の実態
は、当時から大きく変化しています。中学生のあいだに「実録もの」「SMも
の」などと呼ばれる「裏ビデオ」が出回り、個室にテレビとビデオを持つ生徒の
部屋に集まって見る、ということも珍しくなくなっています。今回の事件でも、
そうした映像による異常な性体験の蓄積が少年たちの人間としての理性、感情を
極端に破壊していたのではないか、とみる人もいます。一方で、そうした実態
がおとなに見えにくくなっている状況も広がっています。
 こうした事態につけこんで、暴力団が暗躍していることも、前回とりあげまし
た。
 事件が起きた地域の周辺には、都内としてはまだ比較的低家賃の賃貸アパ
ートなどが残されています。「仮の住まい」としてここに住み、また出てい
く住民が多いのも特徴です。
 少年A(一八)、B(一七)、D(一七)の家庭は、事情は違いますが、実質的に父親が不
在でした。証券会社に勤め、ほとんど家に帰らなかったというAの父。Bの父
は、Bが小学校四年のころに家を出、いったんはBを引き取りますが育てきれ
ず、Bは着のみ着のままで母親のところにもどってきました。
 Dの父は、いったん離婚。復縁の話し合いに向かう途中、交通事故死しまし
た。

    子どもの育ちにく
    さの根っこに…

 上坪さんは「この地域に限りませんが、いま、家庭が不安定になっているとい
われる背後には、経済や雇用、家族生活の不安定があります。おかみさんの暮ら
しにくさ。父親の働きにくさ。それと、子どもの育ちにくさとは、一つの根っこ
のものではないでしょうか」と話します。
 「その現実のなかで、失われてしまった地域のきずな≠再生させることは
大変な仕事ですが、その大きな努力なしには、子どもを守り育てることはできな
い。それは、社会的なたたかいだといえるのではないでしょうか」と上坪さんは
指摘します。                          (つづく)